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ペットボトル麦茶と、長電話(ほっとできるショートストーリーvol.4)

休憩中や移動中、眠るまえなどのちょっとした時間にたのしめるショートストーリーをお届けします。
3〜5分で読める一話完結の物語です。
繋がりはありませんので、どのお話からでも読んでいただけます。

ほっこりできたり、ちょっと元気になれたり、自分を大切にしたくなるような物語をお届けできれば嬉しいです。

『今日はほんとにありがとう。私、パソコンのことわかんなくてさ……』

「気にしないで。久しぶりに話せただけでも嬉しかったし」

 本心だった。その証拠に結衣ゆいの声は平時より弾んでいる。

 お互いなんだかんだ忙しくてしばらく連絡を取っていなかった友人の実那みなから連絡があったのは、三日前。

【パソコンを買い替えたいんだけど、どれがいいかわからないから相談にのって】

 結衣は間髪を入れずに、了承の返事を送った。

 事前に予算と用途を訊き、いくつか見繕ったノートパソコンのリンクを送った上で今晩の通話を迎えた。

 約30分に渡り、詳しく用途や使うシーン、場所、キーボード配置などを聞き取り、購入するノートパソコンのスペックや条件だけを伝えた。

 どのメーカーで買うかは正直好みの問題だし、似たスペックでも金額が異なるから、それは実那自身に選んでもらうことにした。

「正直私も詳しいわけじゃないから、みーちゃんにとって一番いいスペックかはわからないけどね……」

 結衣はパソコンの専門家でも販売員でもない。自然と予防線を張る言葉が口から出た。

『そんなことないよ。メモリとSSDがなにかもわかってない私にしたら、さすがって感じだった』

 小売店の販売員をしている実那は仕事でもプライベートでもパソコンはあまり使わないらしい。それでもノートパソコンがないと困ることがあるらしく、買い替えることにしたらしい。

 彼女に比べたら、システムエンジニアをしている結衣のほうがパソコンとの親和性は高く、事実声がかかった理由も仕事柄パソコンに詳しいだろうという理由だった。

「役に立ててよかったよ」

 用件が済み、お互いが会話を終了するような言葉を選び始め、結衣は少し寂しくなった。

 話し足りない。連絡を取っていなかった1年間のお互いのこと、近況を聞きたいし話したい。

 結衣の思いが漏れたのか、しばし無言の時間が流れた。

『ねぇ』「あのさ」

 二人の声が重なった。

「先どうぞ」

『ね、私、明日休みなんだけど、この後まだ話せる?』

 願ってもない提案だった。

「話せるよ。私明日も在宅だからぎりぎりまで寝てられる」

『ほんと? やった!』

「実は同じこと言おうとしてた。せっかくの久しぶりだから」

『だよね、だよね!? あ、そうだ。ちょっと飲み物準備してもいい?』

 実那が長丁場を想定しているのだと直感して結衣は嬉しくなった。

「あ、じゃあ私も」

『オケ。じゃあ、5分後にかけなおすね』

「わかった。またあとでね」

 通話が切れると結衣は勢いよく立ち上がった。

 

(飲み物……、あ、コーヒー切れたんだった。紅茶淹れようかな)

 ちょっと考えた結衣は財布を持って玄関に向かった。

(自販機で冷たいもの買おう)

 追加イベントの発生に、結衣は自分が興奮気味であることを自覚していた。冷たいものが今の自分には合う、そう思ったのだ。

 買ってきた600mlの麦茶をグラスにトクトクと注ぎ、ぐびっとあおる。30分間にわたる説明で乾いていた喉を麦茶がさらさらと潤していく。

(麦茶、正解だったかも)

 さて、何を話そう、何を聞こう。

 1年間を埋める話題はいくらでも溢れてくるけど、時間は有限。厳選しないと。

 結衣は頭を回転させた。

 1分後、【かけても大丈夫そう?】とメッセージが届いた。

『いやぁ、5分の間になに訊こうかいろいろ考えちゃったよ~』

 実那の第一声に結衣はにやけた。

「私も」

『だよねだよね』

 見えなくても実那も笑っているのがわかる。

 ペットボトルの麦茶がほぼなくなった頃、結衣たちの長電話は終わった。

 2時間以上大いに話し、次は会おうねと約束して。

「あー、楽しかった。興奮して寝付けないかも」

 心地よい疲労感に襲われつつ、結衣は残りの麦茶を飲み干した。