休憩中や移動中、眠るまえなどのちょっとした時間にたのしめるショートストーリーをお届けします。
3〜5分で読める一話完結です。
繋がりはありませんので、どのお話からでも読んでいただけます。
ほっこりできたり、ちょっと元気になれたり、自分を大切にしたくなるような物語をお届けできれば嬉しいです。
「ありがとうございました。それでは、失礼します」
さやかはミーティングツールを切って、ワイヤレスイヤホンを外した。
背伸びをすると固まっていた身体がミシミシと音を立てた。
「あー、肩凝る」

パソコンの時計が15時17分を表示している。
1時間半の予定だったけれど、少し早く終わったのはさやかにとって嬉しいことだ。
15時半からの新たなミーティングまで少し余裕が生まれたからだ。
さやかはキッチンに向かった。
自分でコーヒーを淹れることができるのは、在宅勤務の良いところの1つだ。
お湯を沸かしている間にドリッパー、マグカップ、ペーパーフィルター、コーヒーを取り出す。
淹れるといっても、本来抽出したコーヒーを受け止めるサーバーは用意していない。マグカップに直接抽出してしまう。洗い物と道具を減らすためだ。
お湯でドリッパーとマグカップを温め終わったら、ペーパーフィルターにコーヒーの粉を適量入れ、お湯を少量だけ注ぐ。
粉の中のガスを抜く「蒸らし」をしたほうが美味しくなると聞き、少し前から取り入れるようになった。
香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、ミーティングの疲れを押し出していく。
ガスが抜けてコーヒーの粉の中心にぼこりと穴が空く様を見つつ、さやかは首をゆっくりと左右に倒した。凝り固まっていた首筋がじんわり伸びていくのが、なんとも痛気持ちいい。
蒸らしを終え、円を描くようにお湯を注いでいくと、コーヒーの粉が隆起してコポコポとかわいい音を立てた。
今度は、右足を後ろに曲げ、後ろ手につま先を掴んだ。前腿を伸ばすのだ。
座り仕事は腰痛との戦いである。
腰の痛みには腰を沿らすのではなく、お尻や太腿を伸ばしたほうが効果的だと知り、毎日やるようになった。
健康のために習慣にしたというより、痛すぎるあまり自然と習慣になったというのが滑稽ではある。
コーヒーを淹れる時間とストレッチがこんなにも相性がいいとは思いもしなかったけれど、香ばしい香りと癒しの音も相まって、今では在宅勤務独自の気分転換に発展している。
次のお湯を注ぎ入れる。
今度は左足のつま先を後ろ手に掴んだ。
ポトポトとコーヒーがマグカップに落ちる音を聞きながら、左前腿をぐーっと伸ばす。
その後の数回のドリップで太腿の裏も解したさやかは、腰の痛みがだいぶ和らいだことに満足した。

湯気をあげる黒く液体に白いクリープの粉を混ぜたら完成だ。
コト、とカップを置く。
時間は15時26分。
次のミーティングの準備ができるだけの時間が少しだけ余った。
「さて、残りも頑張るかー」
さやかはマウスを操作して、ミーティングで使う資料を開いた。

